海外企業と結ぶ代理店・ライセンス契約:正文・準拠法・紛争解決・外国通貨・独占の条件

海外の相手方との契約は、正文・準拠法・紛争解決・通貨・変更と独占の五つを先に決めてから、条文を読みます。

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日本語の訳文を読んで理解したつもりでも、署名の対象は原文である契約が少なくありません。

このページの要点

  • 正文は、原文のみ・二言語併記で優先言語あり・どちらも正文、の三つの型がある。訳文が参考にすぎないなら、重要な条文は原文と照らす。
  • 準拠法は通則法7条により当事者の選択が原則。準拠法と、裁判所または仲裁の条項は、一組で検討する。
  • 外国裁判所の判決は日本で執行判決が必要。仲裁判断は仲裁地を問わず、執行決定で執行できる(仲裁法45条・46条)。
  • 外国通貨の報酬は、換算の基準日・相場・送金費用の負担を書き、相手方の一方的な変更には、通知・異議・解除・清算を求める。

結論:正文・準拠法・紛争解決・通貨・変更と独占の条件の五つを、先に決めてから条文を読む

海外の企業から日本での販売権やライセンスを受ける契約、あるいは日本の事業者が海外の企業に独占的な利用を許す契約は、国内の代理店契約やライセンス契約と中身は同じでも、読み方が変わります。理由は、契約書の言語、適用される法律、争いが起きたときの裁判所、お金の通貨、それぞれが国内の契約のように「当たり前」ではなくなるからです。

この文章でいう海外企業との契約は、事業者どうしの契約(BtoB)です。海外の会社が日本の消費者に売る場面や、日本の通信販売の表示は、別のガイドで扱います。ここで扱うのは、日本側が代理店・販売店・ライセンシー・ライセンサーのいずれかの立場で、海外の相手方と結ぶ契約です。

契約書を読むときの順番として、次の五つを先に確認します。

  1. 正文:契約書の言語は何で、どの言語の文面が正式な契約か。日本語の訳文は、どういう位置づけか。
  2. 準拠法:契約の成立や効力を判断するときに、どの国の法律によるのか。
  3. 紛争解決:争いが起きたとき、どこの裁判所、または仲裁機関で、どの言語で解決するのか。
  4. 通貨とお金の流れ:報酬・手数料・ロイヤリティは、どの通貨で、いつの為替相場で換算し、送金の手数料は誰が負担するのか。
  5. 変更と独占:相手方が規約や価格を一方的に変えられるか。独占権を得る場合、その対価は何で、どういう条件で外れるか。

独占の範囲や販売目標の一般論は独占販売契約書で、ライセンスの許諾範囲と対価の基礎はライセンス契約書で扱っています。販売店の再販売の基本形は販売店契約書にあります。このページでは、海外の相手方との契約に固有の論点だけを書きます。外国法の内容は、確かめられる範囲を超えて書きません。

正文と和訳:どちらが契約か

海外の相手方が英語で作った契約書を、日本語に訳して読む場面があります。このとき最初に決めるのは、どの言語の文面が正式な契約書かという点(正文)です。実務では、次の三つの型があります。

正文の型と、それぞれの注意点
型内容日本側の注意点
原文のみ正文英語版のみが契約書で、日本語訳は参考のための文書にとどまる。訳文と原文の間に食い違いがあれば原文による署名する書面が原文であることを自覚して読む。訳文だけを見て決めない
二言語併記・優先言語あり両言語で契約書を作り、食い違いがあるときは、特定の言語を優先する優先されない言語の文面は、読み物にとどまる。優先される言語で意味を確かめる
二言語併記・どちらも正文両言語のいずれも正式な契約書とする食い違いの解釈をどう決めるかを書いておく(協議、特定の言語を基準、など)

契約書の冒頭に「参考のための翻訳である」と書かれた日本語版を渡されることがあります。これは型の一つ目で、署名の対象は原文です。

日本語の訳文が参考とされていても、日本側の担当者が読むのは通常は訳文です。実務では、訳文を読んで内容を理解し、原文に署名するという流れになるので、訳文と原文が合っているかが、決定的に重要です。注意すべき点は次のとおりです。

  1. 訳文が誰によって作られたかを確認する。相手方が作ったのか、日本側が手配したのかで、訳の誤りの責任の所在が変わります。
  2. 重要な条文(許諾の範囲、対価、解除、責任の上限、準拠法、紛争解決)は、原文の言葉と訳語の対応を確かめる。「exclusive」は独占的、「irrevocable」は取消不能、「sublicense」は再許諾のように、法的な意味をもつ言葉の訳語は慎重に確認します。
  3. 定義語は訳語を統一する。同じ原語に複数の訳語が当てられていると、日本語で読んだときに別の概念のように見えます。
  4. 訳文が原文より短い、あるいは長い箇所は、省略や付け足しがないかを確認する。
  5. 契約を変更する場合は、原文と訳文の両方を直す。片方だけを直すと、食い違いが新たに生まれます。

近年は、機械翻訳に頼って英文契約を読む例も見られます。便利な反面、法的な意味のある言葉(「shall」「may」の区別、「best efforts」「reasonable efforts」の違い、否定の範囲など)を取り違えることがあります。機械翻訳の結果は読む助けにとどめ、重要な条文は人が原文と対照して確かめます。また、契約の中に、相手方が機械翻訳を使って作った資料や成果物の取扱いを定めておくか、AIによる翻訳を使わないことを特約にするか、を決める場面もあります。

言語に関する条項(条文例)

1本契約は、英語及び日本語で作成する。英語版を正文とし、日本語版は参考のための翻訳とする。

2英語版と日本語版の間に相違があるときは、英語版による。ただし、乙は、日本語版の誤りに気づいたときは、甲に通知し、甲は速やかに日本語版を訂正する。

3本契約に基づく通知、報告書及び請求書は、英語で作成する。乙の希望があるときは、甲は日本語の要約を添付する。

正文を一方の言語に決めたうえで、日本語版の誤りを直す手続を置いています。訳文の誤りを見つけたときの扱いが書かれていると、訳をめぐる争いが減ります。

準拠法:契約の成立と効力にどの国の法律が適用されるか

準拠法とは、契約の成立や効力を判断するときに適用される国の法律をいいます。法の適用に関する通則法は、7条で「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による」と定めています。つまり、当事者が選んだ国の法律が、原則として契約の準拠法になります。当事者は、後から準拠法を変えることもできます(同法9条。ただし、第三者の権利を害することになるときは、その変更を第三者に対抗できません)。

当事者が準拠法を選んでいないときは、8条により、契約に最も密接な関係がある地の法によります。8条2項は、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(関係する事業所があれば、その事業所の所在地の法)が最も密接な関係がある地の法と推定する、と定めています。たとえば、販売店契約で、特徴的な給付を行う当事者をどちらと見るかで、結論が分かれる場面があり、契約書で準拠法を明示しておく利点が大きいといえます。

準拠法の選択には、次のような留意点があります。

  • 準拠法を相手方の国の法にすると、条文の意味や契約の解釈を、日本側が自分では確かめられなくなります。確かめられない法律に従うことになる点を、どこまで受け入れるかは、ほかの条項の修正との優先順位で決める項目です。
  • 準拠法は、契約全体について一つの国を選ぶのが通常ですが、独占、再許諾、知的財産の帰属などの個別の論点で、別の国の法律が絡むことがあります。権利の保護の範囲は、権利が保護される国の法律に関わる問題が含まれることもあるので、準拠法の条項だけで、すべてが決まると考えない方が安全です。
  • 外国法を準拠法とした場合でも、その適用の結果が日本の公の秩序や善良の風俗に反するときは、適用されません(通則法42条)。ただし、これは例外中の例外で、日本側に不利な条項を直す手段としては期待できません。
  • 消費者契約や労働契約には特例がありますが(通則法11条・12条)、事業者どうしの契約には適用されません。

契約書にこの種の条項を置く場合、次のような書き方があります。

準拠法の条項(条文例)

1本契約の成立、効力、解釈及び履行は、日本法に準拠する。

2前項にかかわらず、本契約に基づく乙の知的財産権の保護の範囲は、当該権利が保護される国の法による。

契約全体は一つの法で統一したうえで、権利の保護の範囲だけは、その権利が保護される国の法による旨を置いています。

ここで一つ、契約書を読むときの確認点があります。契約書の当事者の所在国と、準拠法の国が一致しないことは珍しくありませんが、契約書の中で一致しない国が複数登場する場合(当事者の所在国、準拠法の国、裁判所の所在地がそれぞれ別の国になっている場合)は、条項の間に不整合がないかを見直します。たとえば、前文と準拠法の条項が別々の国を指しているときは、どちらかが誤記である可能性があります。誤記なのか意図なのかを、署名の前に相手方に確かめます。

紛争解決:裁判所・仲裁・言語をどう読むか

契約書の最後の方にある紛争解決の条項は、争いがない間は読み飛ばされがちです。しかし、争いが実際に起きたとき、この条項の内容で、費用も時間も大きく変わります。

裁判所の合意(合意管轄)

民事訴訟法3条の7第1項は、当事者が合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかを定めることができる、と規定しています。この合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、書面でしなければ効力を生じません(同条2項。電磁的記録による場合は書面とみなされます。同条3項)。外国の裁判所にのみ訴えを提起できる旨の合意は、その裁判所が法律上または事実上裁判権を行うことができないときは、援用できません(同条4項)。

裁判所の合意がないとき、日本の裁判所が管轄権をもつかどうかは、民事訴訟法3条の2以下の定めによります。契約上の債務の履行の請求を目的とする訴えは、契約で定められた債務の履行地が日本国内にあるときなどに、日本の裁判所に提起できます(同法3条の3第1号)。ただし、日本の裁判所に管轄権があっても、事案の性質や応訴の負担などを考慮して特別の事情があるときは、訴えが却下されることがあります(同法3条の9)。

外国裁判所の判決と、日本での執行

外国の裁判所で判決を得ても、それだけでは日本で強制執行できません。外国裁判所の確定判決が日本で効力を認められるには、民事訴訟法118条の要件(外国裁判所の裁判権が認められること、敗訴の被告が呼出しや命令の送達を受けたこと、判決の内容と手続が日本の公序良俗に反しないこと、相互の保証があること)をすべて満たす必要があります。そのうえで、民事執行法24条の執行判決を求める訴えを起こし、強制執行を許す旨の宣言を得る必要があります。つまり、外国の裁判所を選ぶと、そこで勝っても、日本での回収には別の手続が必要になります。

仲裁

仲裁は、当事者が合意により、紛争の解決を第三者(仲裁人)に委ね、その判断に従うことにする制度です。仲裁法13条は、仲裁合意が、当事者が和解をすることができる民事上の紛争(離婚又は離縁の紛争を除く)を対象とする場合に効力をもち、書面でしなければならないと定めています。仲裁合意の対象となる紛争について訴えが提起されたときは、被告の申立てにより、訴えは却下されます(同法14条1項)。

仲裁判断は、確定判決と同一の効力をもちますが、民事執行をするには、裁判所の執行決定が必要です(同法45条1項・46条)。仲裁判断は、仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わず、この規定の対象とされています(同法45条1項)。外国で出された仲裁判断も、日本で執行決定を得られる余地があります。一方で、外国の裁判所の判決は、先に述べたとおり、執行判決の手続が必要で、相互の保証などの要件もあります。仲裁の方が、国をまたぐ回収の見通しが立てやすい、といわれるのは、この違いが理由の一つです。

紛争解決の型の比較
型特徴日本側の注意点
日本の裁判所を専属とする日本側にとって使いやすい。判決を日本で執行しやすい相手方の財産が海外にあると、判決を海外で執行する手続が別に要る。相手方が受け入れるかが課題
相手方の国の裁判所を専属とする相手方に都合がよい費用・言語・手続の負担が大きい。判決の日本での執行に執行判決が必要
仲裁非公開で、判断が確定的。国をまたぐ執行の見通しが立てやすい仲裁地・仲裁機関・言語・仲裁人の数と選び方を書く。費用が高くなることもある
被告の所在地の裁判所訴える側が相手方の国に出向く形になり、提訴の心理的な障壁が上がるどちらが訴える側になりやすいかを考え、立場に合うかを検討する

条項が空欄のまま、あるいは「協議により解決する」とだけ書かれた契約もあります。それでも、争いが起きたときの手続を決めておく方が、後の負担は小さくなります。

紛争解決条項の整え方(一般的な例)

管轄の合意

よくある書き方本契約に関する一切の紛争は、甲の本店所在地を管轄する裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
整えた書き方本契約に関する一切の紛争は、被告となる当事者の本店所在地を管轄する裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。ただし、知的財産権の侵害に対する差止めの請求は、侵害地を管轄する裁判所にも提起できる。

どちらが訴える側になるかで管轄が変わる「被告地主義」にすると、双方が同じ条件に立ちます。差止めだけは、侵害が起きた場所で早く対応できるよう例外を置いています。

仲裁を選ぶとき

よくある書き方紛争は仲裁により解決する。
整えた書き方紛争は、仲裁機関の規則に従い、仲裁により最終的に解決する。仲裁地は○○、仲裁人の数は一人、仲裁手続の言語は英語とする。

「仲裁により解決する」だけでは、仲裁地・機関・言語が決まらず、仲裁を始めること自体で争いになります。仲裁地・機関・言語・人数を書きます。

修正を求めるときの優先順位も整理しておきます。海外の相手方との契約で、すべての条項の修正を求めるのは現実的ではありません。日本側は、まず次の順で優先度を考えます。

  1. 責任の上限と補償:相手方の一方的な免責や、日本側だけが補償を負う設計が含まれていないか。
  2. 解除と終了後の扱い:日本側の投資や在庫が残るときに、どう精算するか。
  3. 独占の対価と外れる条件:独占を得る場合の義務(最低購入、販売目標)と、独占が失われる条件。
  4. 準拠法と紛争解決:日本側が確かめられない法や遠い裁判所を、どこまで受け入れるか。
  5. 通貨と換算:為替の変動を誰が負うのか。

この順位は、事案によって入れ替わります。大切なのは、受け入れる項目と、譲れない項目を、署名の前に分けておくことです。

外国通貨のロイヤリティ・手数料:換算と送金の書き方

海外の相手方との契約では、報酬やロイヤリティ、手数料が、外国の通貨で定められるのが通常です。民法403条は、外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができると定めています。つまり、通貨を指定しても、日本の通貨で支払うことが法律上は可能ですが、契約書で、支払の通貨と換算の方法を明確にしておく方が、争いを避けられます。

契約書に置くべき項目は、次のとおりです。

外国通貨の支払条項に置く項目

  • 支払の通貨:契約の通貨と、実際に支払う通貨が同じか。違うなら、どの通貨からどの通貨へ換算するのか。
  • 換算の基準日:売上の発生日、報告日、請求日、支払日のどれの為替相場を使うのか。
  • 換算の相場:どの機関が公表する、どの種類の相場(仲値、売り、買い)を使うのか。
  • 最低支払額:累計が一定額に満たない間は、支払を留保できるとする書き方がある。留保した分は、いつ、どの条件で払うのか。
  • 送金の手数料:送金元の銀行手数料、中継銀行手数料、受取側の手数料のそれぞれを、誰が負担するのか。
  • 金額の表示:金額は税込か税別かを書く(税の扱い自体は、本ページでは扱わない)。
  • 報告書:売上・数量・単価・ロイヤリティの額を記載した報告書の書式と、提出の期限。

ロイヤリティの基礎となる金額も、通貨と並んで大切です。小売価格を基礎にするのか、卸売価格を基礎にするのか、実際に受け取った売上(純売上)を基礎にするのかで、受取額は変わります。ライセンスの対価の基礎の一般論はライセンス契約書に書いてあるので、ここでは、基礎の言葉が通貨に結びつく点だけ補います。たとえば「卸売価格の○%」のように書く場合、卸売価格が外国の通貨で表示されるのか、報告書の様式に卸売単価の欄があるのか、無償で提供した分を売上とみなすのか、といった点まで、別紙で決めておく必要があります。

外国通貨の報酬条項(一般的な例)

換算の基準

よくある書き方乙は、甲に対し、売上に応じた報酬を、各月末までに支払う。
整えた書き方乙は、甲に対し、各月の売上について、翌月末日の最終営業日に公表された特定の公的機関の為替相場によって甲の指定する通貨に換算した額の報酬を、報告書の提出から一定期間内に、甲の指定する口座に送金して支払う。送金に要する費用は、送金元の費用を乙が、受取側の費用を甲が負担する。

換算の基準日・相場・送金費用の負担を決めると、請求書と入金額のずれによる争いを避けられます。

最低支払額

よくある書き方報酬が一定額に満たない場合は、翌月以降に繰り越す。
整えた書き方月の報酬が最低支払額に満たない場合は、累計が最低支払額に達するまで支払を留保し、契約終了の時点で残額があれば、終了後一定期間内に全額を支払う。

留保が、契約終了時にも続いたままになるのを防いでいます。

為替相場の変動によるリスクは、通貨の指定の方法で、どちらかが負うことになります。日本側が外国通貨で受け取る場合は、円高になったときに受取額が減り、日本側が外国通貨で支払う場合は、円安になったときに負担が増えます。ここに価格調整の条項を置いて、為替の変動が一定の幅を超えたら協議する、という書き方もあります。

相手方の一方的な変更と、独占の対価・解除条件

海外の本部や運営会社が、世界共通の規約、価格表、ブランドガイドライン、プラットフォームの利用規約を持っている場合、契約書にその規約が「随時変更される」「変更後のものに従う」と書かれていることがあります。変更が日本側に不利でも従う、という設計です。

この種の条項について、日本側が検討することは次のとおりです。

  • 変更の通知:変更の前に通知があるか。通知の方法(電子メール、ウェブサイトへの掲載)と、事前の期間はどうか。
  • 異議と解除:変更に同意しないときに、契約を解除できるか。解除に伴う費用(在庫の買取り、投資の回収)は誰が負担するのか。
  • 過去の取引への適用:変更の効力が、すでに成立した注文や、進行中の取引に及ぶか。
  • 対象:価格だけでなく、独占の範囲、販売の条件、ロイヤリティの率が一方的に変えられる設計になっていないか。

日本の民法には、定型約款の変更の定めがあります(民法548条の4)。定型約款準備者は、変更が相手方の一般の利益に適合するときや、契約の目的に反せず、変更の必要性・内容の相当性・変更の定めの有無などに照らして合理的なときには、個別の合意なしに契約の内容を変更できます。ただし、この規定が適用されるのは、日本法が適用される契約のうち定型約款に当たるものに限られます。海外の相手方が準拠法を外国法に定めている場合は、外国法の下で一方的な変更が許される範囲は別の問題になり、日本の民法の規定を手がかりに考えることはできません。外国法の内容は、本ページでは書きません。

独占の条項も、海外の契約では独特の設計になります。日本での独占的な再販売や配信の権利を得る場合は、独占の対価(日本側が負う義務)を確認します。たとえば、最低購入数量、最低支払額、販売目標、広告投資の義務などです。逆に、日本側が権利者として、海外の事業者に独占的な翻訳や配信を許す場合は、独占の範囲(地域、媒体、期間)と、独占を外す条件が中心になります。後者では、独占地域に日本を含まないことや、一定期間を過ぎたあとの日本側の自己利用を許す書き方もあります。

独占と外れる条件(一般的な例)

独占が外れる条件

よくある書き方乙は、独占地域において、本件コンテンツの翻訳及び配信を独占的に行う。
整えた書き方乙は、独占地域において、本件コンテンツの翻訳及び配信を独占的に行う。ただし、乙が、最初の配信から一定期間内に翻訳物を配信しないとき、又は最低支払額を二期連続して満たさないときは、甲は、通知により独占を非独占に切り替えることができる。

独占の対価が果たされない場合に、独占が自動的に外れる条件を置いています。独占地域・媒体・期間の記載とあわせて確認します。

日本側の自己利用

よくある書き方甲は、本契約の期間中、独占地域において本件コンテンツを利用してはならない。
整えた書き方甲は、独占地域において、最初の配信から一定期間を経過するまで、本件コンテンツを利用してはならない。当該期間の経過後は、甲は、日本国内の顧客に対して、日本の配信を通じて、非独占的に利用できる。

独占の期間を限り、期間経過後の日本側の自己利用を明記しています。独占の及ぶ範囲を限る書き方の一つです。

独占の一般論と販売目標は独占販売契約書に書きましたので、あわせて確認してください。

表明保証・プラットフォームの規約・特約

海外の契約には、「表明および保証」「補償」という、日本の契約書にはなじみの薄い条項が含まれていることが多くあります。表明保証は、契約の時点で一定の事実が真実であることを当事者が表明し、保証するものです。たとえば、契約を締結する権限があること、契約の履行が他の契約や法令に違反しないこと、権利者が他人の権利を侵害していないこと、などです。

海外の製造元から輸入して売る場合の製造物責任や、リコールの費用の分担については、輸入販売店・代理店の製造物責任と品質保証、リコール費用の分担の記事で詳しく説明しています。

権利者の側の表明保証には、特に注意が必要です。権利者が「相手方による使用が第三者の権利を侵害しない」と保証すると、実際に第三者から請求を受けたときに、補償の条項を通じて、費用を権利者が負担することになります。補償の範囲(争いの対応に要した費用、損失、罰則)や、責任の上限(直近一定期間に支払われたロイヤリティの総額など)がどう書かれているかを、あわせて確認します。責任の上限が一方にだけ及び、他方には及ばない設計は、見直しの対象です。

日本の事業者が、海外のプラットフォーム(配信の基盤、販売の基盤)を使ってサービスを提供する場合は、プラットフォームの規約が、契約と並んで事業を縛ります。たとえば、表現の規制、年齢制限、決済の方法、アカウントの停止の事由などです。日本側の契約書では、次の点を確認します。

  • プラットフォームの規約を守る義務を、どちらの当事者が負うのか。
  • 規約に違反した結果、アカウントが停止されたときの責任と、契約への影響はどうか。
  • 日本の法令(表現に関する規制、景品表示、個人情報など)に違反しない旨の表明保証を、日本側が単独で負う設計になっていないか。
  • プラットフォームの規約が変更されたときの扱い。

最後に、特約として置かれることの多い、新しい項目に触れます。生成AIの普及に伴い、契約の対象物(原稿、イラスト、翻訳物など)を、AIの学習に使わない、AIによる自動翻訳を使わない、といった特約が置かれることがあります。これは契約上の特約であり、守られているかを確かめる手段(報告、監査、違反の効果)まで書いておかないと、実効性が伴いません。

AIの利用に関する特約(条文例)

1乙は、本件コンテンツ又は翻訳物を、生成AIその他の機械学習の学習データとして利用し、又は第三者に利用させてはならない。

2乙は、本件コンテンツの翻訳に、人による翻訳の工程を経ない機械翻訳をそのまま使用してはならない。

3甲は、乙に対し、前2項の遵守の状況について報告を求めることができる。乙が前2項に違反したときは、甲は、是正を求め、是正されないときは本契約を解除することができる。

禁止の内容に加え、遵守の確認と違反の効果を書いています。

署名の前に、相手方に確認しておきたい問い

  1. 契約書の正文は、どの言語か。渡された日本語版は、誰が作ったのか。

    日本語版が参考にすぎないなら、署名の対象は原文です。重要な条文の訳語を、原文と照らしておきます。

  2. 準拠法の国と、当事者の所在国、裁判所の所在地が、それぞれ別の国になっていないか。

    冒頭の前文や署名欄の住所と、準拠法の条項がずれているときは、誤記か意図かを確かめます。

  3. 外国通貨の換算は、いつの、どの相場で行うのか。送金の費用は誰が負担するのか。

    請求書と入金額が合わない原因は、換算の基準と送金費用の取扱いが多くを占めます。

  4. 相手方は、規約や価格を一方的に変えられるのか。変えられたとき、日本側は解除できるのか。

    変更の通知、異議、解除、清算の四つがそろっているかを確認します。

終了のときの扱いと、起きがちなこと

契約を終了するときは、日本側が投資した在庫や広告費、権利の使用の中止、終了後も続くロイヤリティなどの扱いが問題になります。販売店や代理店の終了後の清算の一般論は契約の終わらせ方で扱っていますので、海外の相手方の契約では、次の点を追加して確認します。

  • 終了後に残るロイヤリティの期間が、本文では別紙を指し、別紙にも具体的な日付や期間が書かれていない、という形になっていないか。
  • 終了後に、翻訳物や成果物に関する権利が、一方に残る範囲が、条文の中で矛盾なく書かれているか。
  • 終了の通知の送り先、方法(電子メール、書留、宅配便)が、国をまたいでも届くように書かれているか。
  • 解除の理由に当たる事実が、日本の法律と相手方の国の法律で異なって評価される可能性があるか。

よくあるご質問

英文の契約書と日本語の訳文があるとき、どちらが正式な契約ですか。

契約書そのものが決めます。契約書に「英語版を正文とし、日本語版は参考のための翻訳とする」と書かれていれば、署名の対象は英語版で、食い違いは英語版によって解釈されます。正文を決める条項がないときは、署名した書面の内容と、当事者の意思の解釈で判断されます。署名の前に、正文の条項を確認し、重要な条文について原文と訳文の対応を照らしておくことが大切です。

準拠法を日本法にできれば、海外の相手方との契約は安心ですか。

準拠法が日本法になれば、契約の成立や効力を日本の法律で判断できる利点はありますが、それだけで安心とはいえません。法の適用に関する通則法7条により、当事者の選択が原則として尊重されるので、日本法を選ぶことは可能ですが、紛争解決の場所(裁判所または仲裁)が相手方の国であれば、手続の負担は大きいままです。知的財産権の保護の範囲のように、権利が保護される国の法律が関わる論点もあります。準拠法と紛争解決の条項は、一組で検討します。

外国の裁判所で勝訴判決を得ると、日本でそのまま強制執行できますか。

できません。外国裁判所の確定判決が日本で効力を認められるには、民事訴訟法118条の要件(裁判権、送達、公序良俗に反しないこと、相互の保証)を満たす必要があり、そのうえで民事執行法24条に基づく執行判決を得なければなりません。一方、仲裁判断は、仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わず、仲裁法45条・46条の定めで、裁判所の執行決定を得て執行できます。国をまたぐ回収の見通しを重視するなら、仲裁を選ぶ検討をします。

外国通貨で決めたロイヤリティは、日本円で払ってもよいのですか。

民法403条は、外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済することができると定めています。ただし、契約書で支払の通貨を外国通貨と指定していたり、換算の基準日や相場を定めていたりするときは、その契約が優先される場面も考えられます。請求書と入金額のずれを避けるため、支払の通貨、換算の基準日と相場、送金手数料の負担を、契約書に明記します。

相手方が規約や価格を一方的に変えられる契約は、受け入れるしかないのですか。

受け入れる前に、変更の事前の通知、異議を述べる手段、同意しないときの解除、解除に伴う在庫や投資の清算、が契約書に書かれているかを確認します。日本の民法には定型約款の変更の定め(548条の4)がありますが、日本法が準拠法となる契約で、定型約款に当たる場合に限った話です。外国法が準拠法のときの扱いは、別の問題になります。変更の通知と解除の権利だけでも、交渉で置いてもらえるかを検討します。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、取引の実態や当事者の立場によって変わることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。参考: e-Gov法令検索 / 公正取引委員会 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 特許庁

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